“COELUM LINCEAE GALILEI MENTI APERTUM”

「山猫の眼のごとく鋭敏なガリレオの精神に、天界は開示された。」

図中の要素:

  • ガリレオの望遠鏡 IMSS-2427 と、その目鏡・物鏡の光路模式図

  • ガリレオの物鏡 IMSS-2429 の 枠

  • アッカデーミア・デイ・リンチェイ の紋章(ガリレオ『星界の報告 Sidereus Nuncius』の扉絵にも見られる)

  • ガリレオの (幾何学・軍事用コンパス

  • ポアンカレの半平面モデル

 ガリレオの屈折望遠鏡モデルは、最も単純な形式のひとつである。しかし、多くの光学の説明図では、対称なレンズを用いて示されることが多い。だが、実際の復元モデルのデータによると、対物レンズの両面には異なる曲率半径があることが示されている。これは、ガリレオの望遠鏡モデルが視野が狭いという欠点を持つ一方で、球面収差を軽減する効果があった可能性を示唆している。

 ガリレオが所属していたアッカデーミア・デイ・リンチェイが重視したように、物理世界に対する鋭敏な視覚的分析は、洞察を得るうえで不可欠である。そして、歴史的な科学機器を正確に表現することは、科学的な過程を理解するうえでも必要不可欠である。

 残念ながら、参考文献にあるモデル復元機関は精密な器具の再現に尽力しているものの、示された光路図には誤りがある可能性がある(光線が焦点の手前で交差しているように描かれている)。

参考文献

SciTech Antiques: Galileo’s Telescopes—To Date These Are The World's Finest in Every Detail Museum Quality Replicas.

http://www.scitechantiques.com/Galileotelescope/2428telescopeoptics.htm,(参照2025-10-10).

Atlasー柑橘類の原産地と古代の散布ルートの仮説

Citrus

図中の要素:

  • アトラス(原像はファルネーゼのアトラス)

  • バルトロメオ・ビンビによる Citrus tree propagation を主題とした静物表現

  • Tridacninae — CaCO₃

  • 皮をむいたレモン

  • ボーボリ庭園のフォルコーネの噴水における海神の三叉槍

  • 柑橘伝播経路仮説を示す地図

  1. C. medica

  2. C. medica var. sarcodactylis

  3. C. aurantiifolia

  4. C. linczangensis

  5. Trifoliate Orange

  6. C. ichangensis

  7. C. reticulata

  8. C. maxima

  9. C. japonica

  10. C. tachibana

  11. C. ryukyuensis

  12. C. halimii

  13. C. aurantiifolia

  14. C. micrantha

  15. C. australis

  16. C. australasia

  17. C. glauca

 柑橘類は、ギリシア神話における「金の林檎」の可能な原型の一つと見なされてきた。これに関連して、当該物語に登場する天球を担うアトラスは、天文学の象徴の一つでもある。さらに、天文学的製図の文脈では、Atlas の語は次第に「アトラス(地図帳/星図集)」を指す名詞として定着した。

 ボーボリ庭園の温室(Limoneto)には、極めて充実した柑橘コレクションが収蔵されている。また、レモン果皮に表象された海神の三叉槍は、大航海時代における生物種の交易を象徴するモティーフでもある。加えて、メディチ家の歴史的背景は、前述のガリレオの経験とも相呼応している。

 レモン(Citrus limon)は、C. medicaとC. aurantiifoliaの自然交雑によって生まれた種である。このような交雑においては、条件によっては嵌合体が形成されることもあり、親品種両方の形態的特徴を併せ持つ「ビッザリア(Bizzarria)」のような例も知られている。

参考文献

Wu, G., Terol, J., Ibanez, V. et al. Genomics of the origin and evolution of Citrus. Nature 554, 311–316 (2018). https://doi.org/10.1038/nature2544

Traband, R.C.; Wang, X.; Lui, J.; Yu, L.; Hiraoka, Y.; Herniter, I.A.; Bowman, C.; Resendiz, M.; Wang, Z.; Knowles, S.P.; et al. Exploring the Phylogenetic Relationship among Citrus through Leaf Shape Traits: A Morphological Study on Citrus Leaves. Horticulturae2023, 9, 793.

Bizzarria

図中の要素:

  • 嵌合体 Bizzarria の接ぎ木模式図

  • 頂端分裂組織(SAM)の層構造(L1/L2/L3)

  • 上記層構造が果実発育に及ぼす影響の概念図

  • Bizzarriaの3Dモデルとその絵画の表現形式

 Bizzarria は周縁キメラ(周縁嵌合体)に属し、その特異な形態は植物発生生物学における興味深い研究対象であり続けている。もっとも、発生過程における制御機構は、頂端分裂組織(SAM)の層構造のように明快とは言いがたい。

 視覚的には、カンキツのキメラ(Bizzarria に限らない)の構成が、外側から内側へと果皮から汁嚢へ対応していく単純な階層として誤解されがちである。しかし実際には状況はより複雑であり、果実の構築は三つの組織層の協働により形成される。

参考文献

Zhang, C., Zhu, K., Zhang, Z., Ji, H., Wu, Q., Zhang, L., Ke, F., Wang, G., & Zhang, M. (2025). A study on the cell layer patterns of a citrus periclinal chimera reveals β‑cryptoxanthin regulation in citrus fruits. Advanced Science. https://doi.org/10.1002/advs.202503177

Tanaka, T. Bizzarria—A clear case of periclinal chimera. Journ. of Gen. 18, 77–85 (1927). https://doi.org/10.1007/BF03052603

Tatsuki-Banach Paradox

図中の要素:

  • ケイリー・グラフ

  • ポアンカレの円板モデル(エッシャー(の無限平面充填の「魚」)

 16世紀から17世紀にかけて、植物図譜の様式は多様化し始めた。 風景を描いた巨大植物もまた、一つの形として知られるようになった。 SAMの細胞も、ビッザリアの縞模様の形も、組み立てられた柑橘類の果実に似ている

 ヴォルカマーの『ニュルンベルクのヘスペリデス』に描かれた空に浮かぶ巨大な柑橘類の果実は、まるで太陽のように表現されている。 これは、「Tatsuki-Banach Paradox」の説明と非常によく合っている。

 ファインマンの自伝の中で、数学科との議論は「オレンジを有限の部品に切り、太陽のように組み立てることが可能かどうか」と表現されている。

 

 ユークリッド空間の二次元以下ではバナッハ=タルスキの逆説に適う逆説的分割は成立しない。したがって本図では、より簡潔化した二次元ハイパーボリック空間(ポアンカレ円板モデル)における逆説的分解の一形式を示した。

 青で着色した領域は、魚の頭部および尾部をそれぞれ円板の中心へ写す変換を適用することで、可視的に異なる着色比率が現れることを例証している。

 また、ケイリー・グラフは、当該分解・着色過程に対応する自由群の生成元とその作用を可視化したものである。

参考文献

Tomkowicz, G., & Wagon, S.:「Visualizing Paradoxical Sets」,The Mathematical Intelligencer, Vol. 36, pp. 36–43 (2014).

Bennett, C.:「A Paradoxical view of Escher’s Angels and Devils」,The Mathematical Intelligencer, Vol. 22, No. 3, pp. 39–46 (2000).